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BeLoved.【蜜月記】
第10章 流麗荒亡 2
「あーあの映画?知ってるよ」
彼に後ろから抱きすくめられる形で漬かる、湯船の中。
お湯と…彼の温もりのおかげで、ようやくわたしが落ち着きを取り戻した頃。
これまでの経緯を話したら、意外な言葉が返ってきた。
「監督、俺の高校ん時の同級生だもん」
「えっ、そうなんですか?」
「"有栖川~話聞かせてくれ~"って、今もたまーに連絡くんのよ。あーちなみにおまえが言ってた風呂場のアレ、俺の実体験」
「……」
お湯に浸かっているのに寒気が。…ご主人さまたちの不在時に仕事をサボったことは、ここまでの仕打ちを受けねばならぬほど重罪だったのか…もうしません。──しかし。
「そ、そそそれで、どうなったデスカ?!」
「なにが」
「その、お風呂の、おばけ…」
──怖がりのくせに怖い話好きなわたしは、彼の話に案の定興味をそそられ…続きを催促してしまった。
「隅で突っ立ってただけだよ。俺も普通に風呂入ったし」
「え"…っ?え、映画では襲いかかって…」
「そりゃ映画だからだ。実際あんまねーよそんなん」
「…そうなんですか…。で、でもよく入れましたね…」
「だって汗流したかったし。オナニーもしたかったし」
「……」
『幽霊自体は何処にでも居るからいちいち気にしない』以前、彼自身が言っていた言葉だ。しかし…それ以前に…本当にこの人という人は。
思ったまんまを口にする。そこには前置きもオブラートも存在しない。
嘘も偽りもないから信用できて、長所といえば長所なんだけれども…。なんだろう、もう少し…。
「おい未結」
「ゎぷっ!」
ぱしゃんっ、と突然顔面にお湯をかけられて。
大した勢いではなかったけど、不意打ちだったからモロ喰らいし噎せてしまった。
「な、なに、す…ですかっ!」
「なんかボーッとしてたから。あのさ、俺も一個聞いていい?」
「……。なんですかっ?!」
聞きたいことがあるなら普通に聞けばいいのに!…いやもしかしたら、わたしの考えてたことが見透かされた…?
…ありえる。…いや、何言ってるの。そんな、まさか。
しかし今彼の顔を見たら…本当にそうなってしまいそうな気がして。目線は水面に写る自分に向けたまま、呼吸を整えて問い返した。
そうしたら…核弾頭が降ってきたのだった。
「女もオナニーすんの?」