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誘蛾灯
第3章 寄るな危険
 態々カウンターから出てきて初巳の肩を抱くようにして棚に誘導する。棚から小箱を取りながら空いた手はスカートの裾から忍び込む。脂ぎった掌が生尻に触れたのだろう。初巳は一瞬ビクリと身体を震わすが抵抗しない。スカートがもぞもぞと揺れ中でオッサンの手が尻をまさぐっているのが判る。もう充分だろう。
 「なにやってんだよオッサン!」
 俺はオッサンの手首を捻り上げスカートから引き摺り出す。指先が濡れていやがる。このオッサン尻だけじゃなくてオマンコまで触りやがったな。
 突然の出来事に酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせているオッサンを無視して善意の第三者の俺は被害女性に「早く逃げな」と告げ店から追い出す。
 「このエロ親父。昼間っからやってくれるじゃないか。」
 脅しをかけてみるが落ち着いてみれば相手は中学生だ。オッサンの顔に余裕が生まれる。
 「な、何を言ってるんだ。痛いから手を離せ!」
 離せと言われて離す馬鹿は居ない。関節を固めると更に捻る。
 「黙れよ、この痴漢野郎。」
 「だ、誰が痴漢だ!」
 「お前以外誰が居るんだよ!」
 「しょ、証拠はあるのか!」
 え?このオッサン正気か?自分の店に防犯カメラが在るの忘れているようだ。
 騒ぎを聞き付けたのか奥からこれまたよく肥えた中年女性がはち切れそうな制服を揺すりながら出てくる。
 「お客様。これはいったい?」
 「こいつが女子高生に痴漢してたから現行犯で取り押さえたんだ。警察に連絡してくれ!」
 「ち、痴漢?」
 女の顔が見る見る間に真っ青になる。
 「嘘だと思うなら防犯カメラチェックしてみなよ。」
 俺の声に女は奥に下がり数分後に出てきた時には蒼かった顔は真っ赤に上気しまるで赤鬼の形相になっていた。荒い鼻息をつきながら店員の前に立つと右手を振り上げた。
 その後は修羅場だった。どうやらオッサンは店長で女は奥さんだったようだ。顔に何枚も紅葉を散らしたオッサンは土下座してくるし奥さんは上層部に知れたら一家が食べていけなくなると警察だけは勘弁してくれと頼みこみ白い封筒を俺の尻ポケットに捩じ込む。面倒事は御免だと店を出る背中を女のヒステリックな叫びと鈍い打擲音が押す。この店もう駄目かもしれないな。呑気に考えながら駐車場を見回すが咲子の車はない。これも打ち合わせ通りだ。
 少し離れた所に路駐していた車の後部シートに身を潜らせる。
 
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