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女喰い
第6章 弥八郎
お美代が頭を下げて駆け寄れば、江衛門はお美代を一瞥する。
無愛想な態度だが、『ついて来い』と暗に示唆している。
江衛門が長屋に足を向けて歩き出すと、お美代は勝手知ったるように、江衛門の後について歩く。
パッと見、如何にも江衛門が偉そうにしているように見えるが、江衛門はお美代がついて来られるように歩幅を小さくしていた。
お美代はお武家さまと関わるのは初めてだったが、江衛門を知って、武士に対して良いイメージを抱くようになった。
江衛門は表では武士の面子を保っているが、家の中では何かと手伝いをしてくれる。
とても優しく、頼もしい存在に思えた。
長屋まであと半分のところまで来た時に、柄の悪い連中が何処からともなくフラフラと現れ、2人を取り囲んだ。
「あ……、江衛門さん」
お美代は話に聞いた町奴だと思い、怯えたように後ずさりした。
「お美代ちゃん、こっちへ」
江衛門はお美代を自分のわきへ引き寄せた。
「よお、あんた旗本奴だな」
男らは3人、そのうちのひとりが江衛門に向かって言った。
「そうだ」
江衛門は淡々と答える。
「旗本奴とは縄張り争いをする仲だ、お世辞にもいい印象は抱けねぇが、下手に喧嘩するとお上がうるせぇからな、なあ、あんた、わりぃ事は言わねぇ、その娘を置いていきな、そしたらよー、互いに穏便に済むんだがな」
町奴と旗本奴は仲が悪い。
何かにつけて小競り合いを起こしているが、どちらもお上に目をつけられているのは事実だ。
「断わると言ったら?」
「力づくでも……奪う事になる」
「ほお、郷田屋に頼まれたのか? 」
男は睨みつけてきたが、江衛門は表情を変えずに聞き返す。
「さあな、あんたにゃ関係ねぇ事だ、いいから渡せ」
男はあやふやに答え、一歩前に出てお美代を渡すように迫った。
「断わる」
しかし、江衛門が渡すわけがない。
「ああ、そうかい、この野郎……人が優しくしてりゃつけあがりやがってっ! 」
男は態度を豹変させると、胸元から匕首を出して鞘を抜き、匕首を振りかざして江衛門に向かって行った。
「お美代ちゃん……後ろに」
江衛門はお美代の腕を掴んで自分の背後へやり、刀を抜いて素早く身構え、前に踏み込んだと同時に男へ一撃を浴びせた。
「ぎゃ~っ! 」