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不自由への招待
第1章

『ごめんね、エマ』

繁華街の隅に居を構える娼館『ハピネス』。
両親に見送られ、僕はここへとやって来た。

僕の生家は山間部の田舎。
お人好しの両親は
他人からの頼み事を断れなかった。

禄な稼ぎも無いのに
乞われるがまま金や物品を差し出し
最後にはいつも裏切られていた。

その結果、借金はかさみ首は回らなくなり
元々困窮していた生活は更に劣悪を極めた。

そこへの連日連夜の容赦ない取り立て。
音を上げた両親は貸主に言われるまま
僕を売り飛ばし、安息を得たのだ。

『ごめんね、エマ』

──────

鼻をつくのは、むせかえるような香水の匂い。
耳に入るのは、ドア越しでも響く男女の嬌声。
喉はいくら唾を流し込んでもからからに乾く。

僕を連れてきた下男に着いて廊下を歩く最中
感覚の全てにこの場所の異質さが突き刺さる。

──怖い。自分の体が震えているのがわかる。
火を見るより明らかな、僕を待っている未来。
だけどこれで、家族は──楽になったはずだ。


『ごめんね、エマ』

頭に浮かぶのは、涙と鼻水で汚れた両親の顔。
妹弟たちはこれでパンとスープにありつける。

そう。これでいいんだ。これで──…
そう自分に言い聞かせていた時だった。

「おめぇは運がいいなぁ」

それまで無言だった下男が口を開いた。

ここは何処より待遇も客質も金払いもいい。
余程でない限り困ることはないだろう、と。

返答に困り無言になってしまった。
しかし会話が目的ではなかったらしく
下男もそれ以上口を開く事はなかった。

ここで待て、と通されたのは廊下奥の部屋。
装飾されていない室内と狭さが、ここが
所謂『客室』ではないことを物語っている。

「……」

壁際に置かれたベッドに腰を下ろし項垂れる。

膝の上に、ぽたぽたと涙が落ちていった。
泣いちゃだめ。頑張るんだ。家族の為に。
熱くなった目元を乱暴に拭いさった時だ。

『その人』は現れたんだ。

「──やあ、エマ」
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