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第8章 日常

「綾ちゃん…」

千紘くんは私の腕を引き、抱きしめようとした。

「やだっ…」

彼の手を振りほどこうとするけれどしっかりと掴まれていてビクともしない。どうにかその手から逃れようとしてるうちに強引に抱き寄せられ、有無を言わさず彼の体温と鼓動が私に伝わってくる。

彼がゆっくりと静かに話し始める。

「…あの人は高校の時に憧れだった人だけど、今はいい思い出だよ。
こっちに引っ越して来る時は…まだ未練もあったから写真も持って来たけど今はもう整理ついてるから…」

私を抱き寄せたまま首元に顔を埋めるようにして彼は話を続けた。

頬を伝う涙が彼のシャツを濡らしてゆく。

「…あの写真も実はあの時までそこにあったこと忘れてたんだ。綾ちゃんとあった頃にはもう出すこともなくなってたから…」

黙ったままの私を抱き寄せる腕に力が入り、一層彼の鼓動と体温に包まれる。

彼の鼓動と自分の鼓動が同調しているのが心地よくて不思議と少しづつ自分が落ち着いてくるのがわかった。