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M嬢のいる風景
第6章 翼の独り言
 私には夢があります。
 些細な、ごく普通の、でも叶えられそうにない夢です。

 私が愛した人から、ちゃんと愛されて、そしてふたりで暮らしたいという夢です。

 笑わないでくださいね。

 愛することも、愛されることも理解できていなくて、すぐにそこから逃げ出すような女なのに、そんな夢を持っています。
 未だに。
 叶わない夢だけれど、諦めるのは辛いです。

 彼は、じっくりと待つ、と言います。
 いつかは、来てくれるのは間違いないのだから、と言います。

 その通りなんだろうか、と納得しかけています。
 彼の元に行けば、楽になれるのもわかります。
 他の沢山の奴隷さんたちに嫉妬しながら、羨望しながら、とても苦しいとは思います。
 でも、安定した時間を送れると思うのです。

 夢を捨てるのが怖いです。
 それ以上に、安定した時間を過ごすということが怖いです。私自身が変わってしまうことだと、直感的にわかるからです。

 彼は誠実です。そして、嘘つきです。

 彼の元に行き、彼の掌に私の魂が乗せられたら、私は逃げられなくなります。
 暖かで、ふわふわで、まるっこい、そんなモノに私の魂は変えられてしまうでしょう、きっと。
 それは、とても心地良いことだということもわかります。

 でも、怖いです。

 そうなったら、私は私ではなくなってしまいます。
 そうなることは憧れます。

 でも、それは、私が、ずっと、憧れてきたものとは違います。
 私が憧れてきたのは、クリスマスにツリーとケーキを用意「してもらえる」のが普通ということなんです。
 それって、本当にいいですよね。憧れます。

 今、憧れてしまっているのは、それとは違う風景なんです。
 いまは、そちらの方が輝いて見え始めています。
 でも、怖いです。
 私の人生にはなかった、そして私の思いの中にもなかった、そんな風景なんです。
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