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真紅の花嫁
第16章 仄白い指


「夕方の景色は、夕陽を中心に描くのが一般的です。
 沈むゆく太陽が一番美しいですからね。

 ほとんどの夕景絵画は、夕陽か夕焼けを描いています。

 でも、この絵はそれに背を向けて、赤暗く染まった山なみや川面を描写している。
 そこがユニークなところです。

 サインの横に細い筋が見えるでしょうか?」


左下にある画家のサイン。
その横に斜めに伸びた二本の暗い筋を示して、

「これは夕陽に背を向けて長く伸びた画家自身の影だと言う人もいます。

 紫郎には息子さんがいました。
 大小二本あるのは、画家とその息子なのかもしれませんね」

ギャラリートークの参加者たちは、感心したようにその絵に見入った。


(でも――)

本当にそうだろうか?

真波は自分の説明に疑問をもつ。


〈夕景〉の片隅に描かれた小さな影。


寄り添うふたつの影は、父と息子ではなく、美しい年上の女性と才能ある少年だったのではないか。
ふたりで描いた作品に、自分たちの姿を印しておきたかったのではないか。

綾音に見せられた古い写真。

二人で絵筆を持った姿を見た後では、そんな妄想がはたらく。


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