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Q 強制受精で生まれる私
第11章 4.5度目
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「…ここ…どこ…」

 重苦しい瞼を開けた私を真っ先に出迎えてくれたのは、面白くとも何ともない白い壁だった。目を凝らす度にシミが一つずつ増えていくそれは、手を伸ばしても届きそうにない。まるで夜空の星みたいだなと思ってから、これは壁じゃなくて天井なんじゃないかと気付く。

 霞む視界ではよく分からず、試しに汚ならしい星を捕まえられるか確かめようとして左腕を上げる。瞬間、チクッとした痛みが腕に走り、じんわりとしたぬるい異物が拡がっていくのを感じる。痛む箇所に目をやると、手首に一本のプラスチック製のチューブが突き刺さっている。

 まるで最初から私の一部だと主張しているかのようにその存在を誇示するチューブは、私の視界の左端一杯まで長く続いている。その先を僅かにしか動かせない視線で追っていくと、何かの液体が入っているビニールパックが淡々とした真顔で私を見下ろしていた。

 ビニールパックは一言も喋らないくせに、その存在だけで私に二つの事実を突き付ける。ひとつは私が今見ているのは推測通り天井である。つまり私は今この瞬間も仰向けで寝ているということ。もうひとつは、今この瞬間も私はこの物言わぬ機器に生かされているということ…

「そっか…わたし、死んでいたんだ…」

 私は死んでいた。いや、死んだら生き返るはずがないから、生死をさまよった末に戻ってきたと言う方が正しい。あの暖かい何かは血流だけじゃなく点滴が混ざった物だったんだと、今更ながら自分の勘違いに気付く。

 ならば、あの救いの手は一体…?

 その答えは私の右手にしっかりと握られていた。私の手のひらよりも熱く厚い異性の手。握っているというより握られていると言っても過言じゃないそれの先には、ボサボサの大きな毛玉が私のお腹を枕にしてすぅすぅと寝息を立てている。

「…せん、せい?」

「んっ…うぅん…とぎ?」
 
 命の気配に感付いたのか、先生と思われる黒い毛玉はその細かくて固い毛でもぞもぞとお腹をくすぐりながら、長い眠りから覚める時の様にゆっくりと体を起こし始める。チクチクした毛達がつるつるのお腹を優しく引っ掻くから、思わず目を細めて感じてしまう。
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