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Q 強制受精で生まれる私
第16章 後書き。もとい編集後記
 本作は穂伽が記憶喪失した女性であるという描写から始まりますが、記憶喪失って実際に起きた場合もの凄いストレスになるかと思います。

 向こうは自分を知っているのに自分は相手を知らない。そんなアンフェアなだけでも相当な苦痛なのに、認知のズレにより知らぬ相手の悲しそうな顔や苛立ちの表情を、ワケも分からずにぶつけられる訳です。向けられる笑顔ですら棘の様に痛々しいことでしょう。

 この世知辛いご時世上、苦難な現状を打破すべく自分探しをする者も多い世の中です。五体満足ですら自己が分からなくて苦しいのに、本当に身体に異常があるのではその苦しみは想像を絶するのではと思います
 
 それでも脳の記憶分野がある限り、最終的には思い出して本当の自分を取り戻すのでしょう。心は憶えていなくても体が憶えている…というのは某漫画の台詞ですが、穂伽に至っては過去の自分を嫌悪し、抹消してしまいました。

 体の記憶に乗っ取られただけなのか、はたまた佐渡先生との出逢いを通して、新しい自己を形成したのか…どちらにせよ穂伽は過去の鎖から解き放たれ、新しい人生へと歩みだしたそうです。

 確かにあまり良い過去とは言えませんが、自己破壊を進んで選択するというのはうつ病に等しい行為ではないかと思います。佐渡先生の治療がなくとも穂伽は恐らく同じ選択をしたであろうと考えると、佐渡先生に囚われたのは不幸としか言い様がありません。

 とはいえ、人間とは今を生きるものです。過去の処遇がどうであれ、行き先がどんな形であれ、前にスタートを切れたのであればそれで良いと私は思います。

 後悔ばかりの人生を死なない方法でリセットできるのであれば、それに越したことはありません。人生いくらでもやり直せるし、いつでも再スタートできる…なんて言われていますが、実際には想像以上に苦痛で険しい道のりでしょうし、それを乗り越えた穂伽は確かに本作で大団円を迎えたのだと思います。

 存在意義も居場所も得られた。
 歩む道に付き合ってくれる相手もできた。
 これ以上の幸福が他にあるでしょうか。

 男女貧富問わず、世の価値観に囚われずに己の天命を見つけ、そこに向かって大切な人または物と迷うことなく歩めるように。皆がそんな人生であればいいな、と願っています。
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