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Q 強制受精で生まれる私
第9章 3.5度目
 先生はいつもの診察室に腰をかけていた。脚を組んでは新聞片手にコーヒーを嗜むその姿はいわゆるデキる男の姿そのものだ。何も知らない女だったら端正な顔立ちでこの姿をやられたら少しは心動くものがあるだろう。この男がやってきた悪行を知らなければ。

「おはようございます。浜園さん。今朝も元気そうで何よりです。」

「冗談じゃない。こんなのが元気なんて思われているのなら虫酸が走るわ。」

 こちらの悪態を爽やかな笑みで返す一連のやり取りにも飽きた私は、先生が手にしている新聞に目を凝らす。拉致、監禁の上に強姦の極悪犯罪だ。おまけに相手はその道では名の知れた医者らしい。世間広しといえど少しはニュースになっていてもおかしくはないはずだ。先生に悟られないように紙面一杯に埋め尽くしている文字列に目をやる。

「医師免許も無い貴方が病院新聞なんか見てどうするんですか? 心配せずとも浜園さんのことはどの新聞も一文字足りとも載っていませんでしたよ。」

 本当にこの人の眼はどうなっているのだろう。ほとんど視線を泳がせていないはずなのに、すぐにバレてしまった。医者という生き物はこちらの考えが全て読める全知全能の神なのだろうか。
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