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Q 強制受精で生まれる私
第9章 3.5度目
「ストップ。それ以上はー」

 先生の声が条件となって、反射的にドアを壊す勢いで閉じる。鍵を掛けようと探すも見つからず、力一杯取手を引っ張り扉の奥の人物に抵抗する。向こうから開けようとしてくる素振りは感じられないが、相手は信用なんて微塵も無い極悪人だ。気を抜くことは断じて許されない。

「なんでここにいるんですか!! 今すぐ出てって!!」

「なんでもなにもここは私の病院なのですが…アパートに向かったら留守だったので心配しましたよ。ここにいるとは思いましたが。」

「えぇそうでしょう!! 監禁している人が逃げたとなったらさぞ慌てるでしょうね!! 朝から出待ちするなんてまだヤり足りないんですか!?」

「や、替えの服を渡そうと思っただけなのですが…開けてくれないのでは渡せませんね。バスタオルも置き場から動いた形跡が無いですし、おそらくそっちに無いんじゃないですか? 」

 先生の揺さぶりに耳を貸さないように、よりドアノブへの力を込める…だが早くも限界を迎えてしまう。無理に力を入れたせいか、痺れて腕はおろか指すら動かせない。浴びたばかりの体から垂れ落ちる水滴は脂汗に変わり、不快感が全身を襲う。手汗も酷くなってきて、ついにはドアノブにかかる摩擦もなくなりガチャンと音を立てて手から滑り抜けてしまう。

 無防備な私に待ち受けるのは今日の地獄の扉が開く音…のはずだった。しかし小刻みに震える小動物な私を迎え入れたのは無そのものだった。どれだけ身構えても向こうから襲ってくる気配が感じられない。

 疑心暗鬼で恐る恐るドアを開けると、隙間から拍子抜けする程の柔らかい雰囲気をまとったバスタオルと服らしき物がこちらを覗いている。私は僅か数センチの隙間からそれらを引っ張り出し、急いでドアを閉める。

 体中から嫌な汗が滲み出てもう一度入り直したいけど、アイツがここにいる以上そうはいかない。唯一のオアシスを汚させまいと早々に身支度を整えてドアをゆっくりと開ける。
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