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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第1章 開幕
 下駄で踊る度、つぎはぎの着物の裾が、ふわり、ふわり、踊るように揺れた。
 紅に、山吹、江戸紫。頭の花簪がしゃらしゃらり。
 枯れ木のように痩せっぽち。肺を患っているような青白さ。鴉によく似た色の髪。顔貌はまるで、お人形。歪な舞台で、歪な声で、鴉か何かのように、があがあ、歌う。歌うことしかできぬ、無垢な無力な子ども。

 かん、こん、からん。

 灰色の寒空から、淡く白いものが舞い降りる。冷たい、冷たい。雪。冬の訪れ。
 道行くモノクロオムの中、少年のひとみだけが、爛々と光を放つ。

 ぽつり。

 しかしそれは、あまりに不意に、咲いた。まあるく、分厚い、花びら。レエスのような半剣弁。ドレスのような高芯咲き。
 ふわふわ、きらきら、降り注ぐ。そのおひとの髪は、金色。いっとう高貴な色。雪降りしきる石畳に咲いた、薔薇の花。
 花のようなそのおひとは、紅の羽織の袖をはためかせ、目の前に立った。

 色素の薄い金の髪、切れ長のひとみはすみれ色。どこもかしこも白黒の世界で、そのおひとだけが色を持っている。
 華族の令嬢のように金糸の入った幅広の帯を締めているけれど、丈はこちらと同じくらい。ざくろ、かたばみ、すみれいろ。どれをとっても、継ぎ接ぎのそれより余程上品で、うつくしい。まばゆいほどに輝くその姿に、しばし、見惚れる。
 見ただけで性別はわかりそうにない。ひょっとしたら男なのやもしれぬし、やはり何処かのご令嬢なのかもわからないし、いっそそのどちらでなくとも不思議ではない。むしろ、あやかしの類と云われた方が納得してしまうやもしれぬ。
 雪の白に、薄紅のくちびるが、やさしく灯っている。やや吊りあがった、すみれ色の瞳孔を孕む目許が、薄く血の色を透かしていた。

 陽色は、今までかのようなうつくしいひとを見たことがない。いや、見たことはある、気がする。気がするのだけれど、どこでなのかまでは定かでない。ただ、髪もひとみも肌も、やたらめったら、色素がうすい。
 そのひとは、あまい桃色をしたくちびるを、そうっとひらいた。
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