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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第1章 開幕
「なんだい、生きているの」
「……ふあ」
「ずうっと同じ動きをしているから、自動人形なのかと思ったよ」
ああ、驚いた。
その声色まで、男のようにも女のようにも聞こえる。艶々として、あまい声。女であるにしては低くあまく、男であるにしては高くやさしい。芝居がかった振舞のせいか、よくよく響く音吐のせいか、きれいな劇場の、きれいなステエジの上に立つ、きれいな役者のようにすら見える。話しぶりは紳士のそれだというのに、仕草は紫袴の乙女の如くに可憐だ。ますます何だかよくわからぬ。
「この雪の中、どうして踊っているのかね」
「え、ええと、お客さん、呼ぶために」
「お客さん、」
「ここは、サアカス、なので」
「サアカス、」
その何かよくわからぬひとは、ふうん、と小さく云った。こちらの顔と、頭の上の看板を見比べる。薄紅が灯り続けるくちびるが、白い息を吐きだす。
その、サアカス。
「君も出るの」
「あ、ええと、はい。出ます」
此処に至って仕事を思い出す。
止まっていた足は凍えてうまく動かない。それでもからん、とひとつ、下駄を鳴らす。
かん、こん、からん。
よってらっしゃいみてらっしゃい。
お暇とあらば、見てってください。
かん、こん、からん。
歪に歪に仕立て上げられた、狂気を芸術で包んだステエジ。それは己も同じこと。
濡羽の髪の奥にある、白磁の肌の上にのる、まあるいまあるいそのひとみ。
やたらめったらあいらしく、やたらめったらおぞましい。
血を溶かしこんだ悪夢色、真赤な真赤な、化け物のひとみ。
かん、こん、からん。
「ようこそ、『心中サアカス』へ」
「……ふあ」
「ずうっと同じ動きをしているから、自動人形なのかと思ったよ」
ああ、驚いた。
その声色まで、男のようにも女のようにも聞こえる。艶々として、あまい声。女であるにしては低くあまく、男であるにしては高くやさしい。芝居がかった振舞のせいか、よくよく響く音吐のせいか、きれいな劇場の、きれいなステエジの上に立つ、きれいな役者のようにすら見える。話しぶりは紳士のそれだというのに、仕草は紫袴の乙女の如くに可憐だ。ますます何だかよくわからぬ。
「この雪の中、どうして踊っているのかね」
「え、ええと、お客さん、呼ぶために」
「お客さん、」
「ここは、サアカス、なので」
「サアカス、」
その何かよくわからぬひとは、ふうん、と小さく云った。こちらの顔と、頭の上の看板を見比べる。薄紅が灯り続けるくちびるが、白い息を吐きだす。
その、サアカス。
「君も出るの」
「あ、ええと、はい。出ます」
此処に至って仕事を思い出す。
止まっていた足は凍えてうまく動かない。それでもからん、とひとつ、下駄を鳴らす。
かん、こん、からん。
よってらっしゃいみてらっしゃい。
お暇とあらば、見てってください。
かん、こん、からん。
歪に歪に仕立て上げられた、狂気を芸術で包んだステエジ。それは己も同じこと。
濡羽の髪の奥にある、白磁の肌の上にのる、まあるいまあるいそのひとみ。
やたらめったらあいらしく、やたらめったらおぞましい。
血を溶かしこんだ悪夢色、真赤な真赤な、化け物のひとみ。
かん、こん、からん。
「ようこそ、『心中サアカス』へ」