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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
「そんなものは千遥に頼めばいいだろう!」
「彼は今、英吉利です」
「お兄さまは、」
「仏蘭西」
「チッ! どいつもこいつも! お姉さま……は鮪漁船だね、この間手紙が来た」
「なんで鮪漁船なんかに乗ってるんですか」
「私が知るわけないだろう!」

 じんわりと水気をたたえて真赤に上気したくちびるから、盛大にため息を吐き出し、西園寺が寝椅子に深く沈みこんだ。
 細い首筋と、未だ少女の面影を残した頬が、ほんのりと薄紅に染まっている。ひとより血が廻りやすい彼女は、ひとより白く薄い肌も相まって、こうして赤くなりやすいのだろう。

 この少女は、怒れば怒るほど、と云うよりは、感情を昂らせれば昂らせるほど、より一層うつくしくなる。
 とは、露崎が常々思っていることだが、感情を持たぬ人形と共に暮らしている少女にかける言葉だとすれば、あまりに皮肉がきいているので、くちにはださない。

 ああもう、いやだ、君が持ってくる事件はこういうのばかり! なんて俗なのだね、切り裂きジャックでもあるまいに、芸がないにもほどがある!

 西園寺がひととおり嘆き倒すのを、露崎は黙って聞いていた。

 ひと死にが出ているというのに、芸があるだのないだのと、このひとには多少ひとのこころが欠けているのではないか、ということも、彼女と付き合う内に悟ってしまった。悟れども、決してそれをくちには出さない。その欠けているところに、常人では思いもつかないようなうつくしいものだけを詰め込んで、この少女は生きながらえている。そうでもしなければ早晩死んでいるというのも、また真実である。

 黙りこんだままの露崎の顔を、西園寺は妙に無邪気な様子で仰ぎ見る。

「そういえば私、この間サアカスを見たよ」
「サアカス、」
「道化師と云えばサアカスだよね」

 いや、あれはどちらかと云うと見世物小屋に近かったかな。
 細長い指を顎先に当て、金色の少女は、幼子のように、こてり、首を傾げて見せる。
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