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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
 それなりの西園寺と時間を共にした露崎でも、彼女のすべては分かり得ない。

 その最たるものが、稀に彼女がくちにだす、『お人形』という言葉の意味だ。
 露崎も、初めてこの塔を訪れ、西園寺を慕っていると明かした時に、「私のお人形になる?」と訊かれた。その時はきょとんとして首を横に振ったし、何なら今もその意味をはかりかねている。

 きっとおそらくたぶん、その単語は、露崎が思うそれとは、決定的に違う。

 違うけれども、考えたところで、わかりやしない。彼女と同じ、なにか決定的な部分が壊れていて、それなのにうつくしいものだけを抱きしめて生きているような、そう、化け物であれば、わかるのかもしれないけれど。

 しばらく布に針を刺したあと、西園寺はふいに寝椅子からついと立ち上がった。部屋の内にある螺旋階段をくるくると降りてゆき、暫くの後、大きな紙を胸に抱えて戻ってくる。上背がある西園寺も、こうして自分より大きなものを持っていると、年相応かそれより幼く見えるのだから不思議だ。

 広げてみると、それは使い込まれた地図である。通りの名前や建物の名前、住居の持ち主までこと細かに記録してあるそれは、この少女の、存外に真面目な仕事ぶりの証だ。

 よく見るとそれにはすでに両手では数えきれないほどの数の丸が打たれていて。そしてこれから、みっつ、増える。

「さて、事件の起こった場所を正確に教えたまえ。完璧にだよ」
「……なんだか偉そうです」
「私は君の指図を聞かないけれど、君は私の指図を聞くしかないだろう」

 ほら、早く。

 何処からか取り出した万年筆で、西園寺は地図の上をぽん、と叩いた。
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