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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
 陽色は、神さまの声を知っている。

 怒鳴り声がきいん、と響いた。思わず両手で耳を覆う。どこもかしこも薄いからだは、ひと晩の無体で十分に痛めつけられている。その上朝からこの声では、到底耐えられるものではない。

 今日も夕から舞台がある。昨日と同じに、少しだけ上がらせて貰えるし、歌わせて貰える筈だった。それだけはどうしてもこなしたい。公演の前の客引きも仕事だ。

 だって、だって。きっと、もしかしたら、今日も、あのひとが。

「まだいたのかい!」
「ひっ!」

 酷い生臭さ、怒鳴り声。まだもなにも、こちらは着物すら着ていないのだ。部屋を出てゆこうにも出てゆけない。

 軋む関節に無理を云って、滑り降りるように粗末な寝台を出ると、できる限り素早く衣服を身に着ける。

 振り向けば、薄汚い寝台の上にはこれまた醜い女がいて、やたらと華美な装飾の煙管をふかしていた。やや不自然に巻かれた黒髪が、それだけ豊かにリネンの上を揺蕩っている。

 このひとはサアカスの重要なパトロンであるとか、そういうことらしい。
 陽色は、さして人気のあるわけでもない、ただの一団員なので、詳しくは知らない。この女は、陽色たちの芸を鑑賞した後、こうして気まぐれに、誰かを安宿に引っ張り込んで、慰みものにする。奇妙な見たくれを売り物にして、何とか生きながらえる芸人たち、仲間たちを、食い漁ることを、よく思うものなど、団長と当の女を除けば、いないだろう。だから、魔女だとか、鬼婆だとか、密かに呼ばれている。

 このひともさみしいのかもしれない、陽色は思う。他人ごとながらに僅かに切ない。
 ほんとうに大事にしたいもの、それこそ神さま、がいるのであれば、陽色たちのようなどこの馬の骨ともわからぬ歪なものものを相手にするわけがない。

 挨拶もそこそこに、衣服の中に投げ入れられていた賃金だけはしっかりとポケットに入れて、陽色は宿を辞した。これは陽色がからだで稼いだものだから、己のものしても良い。
 こうでもして金を手に入れる理由としては、日に一度配られる白湯に近い粥と、月に一度の二束三文のような給金では、まともに腹が満たされぬからである。腹が減っては、舞台に立つのも、客引きをするのも、ままならぬ。
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