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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第4章 柔らかな寝台と触れた熱
 首筋にくちびるを押し当てる。

 レエスのあしらってある寝衣に、行儀よく包まれたからだ。見下ろしてみれば、骨の上だけが淡く紅に色づき、それ以外は陶器のごとく傷一つない真白で、内側からふわりと光を帯びているようだった。

 鮮やかなすみれ色のひとみの上に金色の睫毛がけぶる。
 分厚い花びらを重ねたような金色の髪は、こうしてみるとひとを閉じこめる檻のようだ。

「……くちびるをかさねることは、ゆるさない」

 ちゅってする、だけだよ。

 彼女は、陽色の幼い口調を、模倣するようにそう云った。
 いつの間にか、檸檬をくちにしたときのように、口腔が湿っている。ごくりと唾をのめば、その音がやたらと大きく響いて、ぴくり、一瞬、彼女は反応を示した。

 サアカスにいる間、陽色は何度も寝台に呼ばれたが、大抵の場合、自ら何かをすることはなかった。する気が起きなかった。
 人形のように座って、時たま、えんえん、泣き声の物真似をするだけ。それでよかった。

 しかし、この麗しい金の薔薇は、陽色の手の中で、いかように愛でられるのかと待っているらしい。生理的な反射以外は動かないのだろう。丁度安宿の陽色のように。

 今までされたことを、陽色は思い出す。

 そのまま、何をすべきか、考える。残念ながら頭の巡りは良くないが、それでもなんとか、答えを導きだそうとする。西園寺は黙って、その姿を見ていた。
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