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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第4章 柔らかな寝台と触れた熱
 彼女は強いおひとだけれど、やはり触れたら壊れてしまいそうなほど儚げなことには変わりない。
 優しく、やわらかく、努めて繊細に、彼女の手に触れた。腕を撫で、指先を弄ぶ。つうと耳の輪郭を辿り、かと思えば今度はそうっと肩口に触れて。しばらくそうしていると、彼女は徐に身をよじり、ひいろのくちびるを自らの肩甲骨あたりに押し付けた。

「ねえ、くすぐったいよ」
「やめる?」
「…………」

 やめる、とは云わなかった。
 云われなかったから、陽色は、目の前にある真白くてまるい頬に吸い付いた。ちゅう、と僅かに音がする。そのまま、ひとみよりかは幾分か控えめな赤色の舌で、ゆっくりと首筋の輪郭を舐めた。

 西園寺は、仔猫のようにあいらしいものが、自らのからだに舌を這わせるを、何とも云えない気持ちで見つめる。

 半分以上は好奇心から承諾したこの行為に、思ったより不快感はないが、さして心地いいわけでもない。嫌悪感があるわけでも、快楽を得るわけでもなく。
 強いて云うなら、頑張って己に尽くそうとする彼を見ると、胸の奥で、何かが沸き上がる、ような。

「んん、」
「……それ、たのしいの」
「たのしい!」
「そう」

 陽色の稚い微笑みに、何故だか、鼓動が高鳴る。温められたミルクのような、ふわり、あまい香りがした。普段西園寺がつかっているものと同じ石鹸で洗ってやったはずだけれど、西園寺のそれとは決定的に違う。なんだかむず痒くなって、無意識に内股をこすりあわせた。
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