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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第5章 探偵少女と見世物劇団
 頭の中は混沌としていても、現実の雅弥は手際よく化粧を済ませている。

 たとえ仲間がひとごろしになろうとも、無情にも舞台の幕は上がる。零れそうになったものを切り捨て、吐き捨て、うつくしいもの、うつくしくあれるもの、それだけを板の上に並べるのだ。

 鏡の前で衣装を身に着け、部屋を出ようとしたところで、雅弥はそれに気付いた。

 昨日の朝、あの子が置いていったままになっている僅かな荷物の間、古びたレコオド盤が覗いていた。

 思わず近寄り、手に取る。何気なく観察してみると、装丁には紅色と黒の背景に荊の意匠がほどこされ、どうやら髪の長いひとの、首から下が描かれているようだった。紅と金がうつくしい長い上衣、腰から下の内側には重たい黒いフリル、淑女のドレスと紳士の燕尾を混ぜたような、豪奢な衣装。陽色に話しかける前に、ほんの数小節だけなら聴いたことがあるだけだが、確かにこの絵は、曲のイメエジとよくあっている。

 これほどうつくしい衣装を、これほど主張のつよい色で着こなすのは、雅弥であっても難しいだろう。でも、例えば、そう、陽色であれば、色彩に負けることなく、このような服を身に纏っても、より人形じみた姿かたちになるのだろうか。

 ……それにしても、色を封じることができるカメラが開発されたのではないかと疑ってしまうほどに、写実的な絵だ。

 きっと腕利きの画家に描かせたのだろう。これを演じていたひとは、余程名のある劇場を借りることができたに違いない。そこでようやく、緞帳のように降りる柔らかな髪が、金色で描かれていることに気付く。表紙を確認してみると、収録されている曲は、どうやら外国語のものばかりのようだ。

 あの子の、神さま。

 あの子は神さまの歌う言葉の意味を、わかっていなかったに違いない。わからないままあれほど熱心に聞き入っていたのだと思うと、可笑しくもせつないような気持ちで、雅弥は笑った。

 笑って、笑って。目頭を押さえ、ほんの少し、顔をひきつらせた。

 万が一此処に戻ってきたとき、これがなくなっていたら彼は悲しむであろう。他の誰かが気付く前にと、レコオド盤だけ己の荷物の間に移し替える。

 それから何ごともなかったかのように背筋を伸ばして、大部屋を後にした。
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