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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第5章 探偵少女と見世物劇団
 冷たい手のひらが背中を撫でてくる。ぎこちなくも、やさしい手のひらだ。

「……もう一発……いや、三発くらい、入れていい?」
「や、やめたまえ」

 この子の前で危険なことをするのはやめよう。こころに決める。ほんとうに気絶した人間に蹴りを入れにゆかないように、腕に縋るようにして引き留めた。

 ……と。

 そんなやり取りをして、階段の途中で留まっていた三人の上に、影が落ちる。

 次に落ちてきたのは、間抜けな掛け声だった。

「よっと!」
「ふあ!」
「もう、今度はなんなの!」

 長い髪をひとくくり。金色の髪に紫色のひとみ。顔は、西園寺と瓜二つ。仁王立ちが、あまりにも様になっている。

 彼女はしばらく首を傾げたあと、西園寺の顔を指さして怒り出した。

「やっと見つけた! 何処行ってたの、リオ! 探して屋上までいっちゃったでしょ!」
「お姉さま、何故もう此処にいるのです」
「手紙! 手紙が届いたから、はるばる北の海からやってきたの! 貴方の字読みにくいわ!」
「夜の内に郵便受に入れておいたとは云え、どういう技術を以てすれば、半日で鮪漁船から都まで来ることができるのですか……」

 ころころと表情を変え、声色を変え、彼女はあっという間に階段を下りてきた。

 呼んだのは己だが、しかし西園寺は思いきり顔を顰めた。その元気のよさに陽色はひたすら萎縮し、雅弥はひたすら呆れている。

「このひと、なんなの……」
「ああ、貴方たちがサアカスの団員、そっちが赤目のお人形くんに、向こうの子はきれいな顔をしているのね! リオもせっかくだから混ざらない? きっと楽しいわ!」
「私は舞台には立てませんよ、警邏が飛んでくるやもしれません」
「ええ、いいじゃないの、もう。綺麗なものがすきなくせに、本当に綺麗なものはわかっていないのだから」
「……私は、顔だけはうつくしいでしょう、知っていますよ」
「そうだけどそうじゃないわ!」

 抱き着きながら早口にまくしたてる己の姉を、西園寺はため息をつきながら指さした。

 先の会話でわかると思うけれど、紹介しよう、私の姉だ。

「そして、これが今からこのサアカスの団長だよ」
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