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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第6章 心中サアカスと惑溺のグランギニョル
「ふえ、ふあ、うぁあぁあん」
「ああ、ああ、もう!」

 折れ曲がりレコオドとしての役目を全く果たせなくなったそれを抱いて、陽色があまりに泣くので、ビルヂングを出たところで辻馬車を拾った。

 ビルヂングの周りには紺色の制服姿の男たちが大勢詰めかけ、厳重に警戒態勢を取っている。

 西園寺に抱き着くようにして出てきた陽色を見て面食らった露崎は、何があったのかとは聞かず、えんえん泣き喚く頭をまた撫でてくれた。

 彼女は例の派手な着物姿のままで、周囲の制服に指示を飛ばしていたらしい。警察署とは、存外自由な場所なのかも知れぬ。

 陽色の泣き声は、泣き方を覚えられなかった赤ん坊のようにつたない。

 ぽろぽろ、ぽろぽろ、際限なく零れ落ちる雫を、西園寺は横からハンケチで拭ってやる。眼帯も外して、長い睫毛の上にたっぷり溜まった雫を流してやった。

 泣くのは得意だが、泣いているものを慰めるのは慣れない。
 しまいには小さな頭を胸に抱えて撫でてやりながら、額に幾度かくちづけまでした。

 その甲斐あってか、しばらくすると陽色はしゃくりあげるだけで涙を零さなくなる。西園寺にぎゅうと抱き着きながら、上目で見上げてきた。

「こまらせて、ごめんなさあい、」
「それはいいけれど」

 余程大事だったんだねえ、それ。

 陽色の膝の上に置かれた、折れ曲がったレコオド盤。ごとごと、ごとごと、辻馬車の車輪の振動で、僅かに震えているように見える。

 陽色はうん、うん、と幾度となく頷いて、かみさまなの、と呟いた。

「かみさま、」
「なに、歌ってるか、ぜんぜん、わからなかったんだけどね、きくとね、元気になるの」

 もう、聞けないけど。

 あどけない口調に、掠れた声、まるで幼い子どものよう。

 いや、子どもなのだ、最初から、この子は。

 大人たちに愛されることなく、歪に育ってしまった、可哀想なお人形。

 また目蓋の淵に雫が溜まり始める。ほとんど膝の上にのせてやるようにして、震える頭を撫でて慈しみ、泣きごとをブラウスの胸元で受け止めながら、改めてじっくりとレコオド盤を眺めた。
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