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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第6章 心中サアカスと惑溺のグランギニョル
 それを確認して、やっぱり、と呟く。

「ねえ、リオ、あのね、やっぱりね、おれね、ちゅってする、だけ、は、やだ、」
「ン、ぅ、は、な、」
「おれ、あんたにくらべれば、きたないけど、それでも、あんたと、」

 せっくす、したい。

 この期に及んでそんなことを、しかもやたらと真剣な顔で云うものだから、リオは一瞬、面食らった。

 そうして、くすくす、密やかな笑い声をあげる。

 君ねえ、この私が許したと云うのに、まさか、覚悟ができてないなんて、云わせないからね!

 何を、とでも云おうとしたのだろう。半開きになったくちびるに、リオは己のそれを、躊躇いなくかさねた。蜜のようなあまい匂い。彼女の薄い目蓋に、陽色の睫毛が触れる、やさしい音。薄い皮膚は、淡い温度を、よくよく伝える。お互いにそう体温が高いものでもないから、どちらに奪われるというわけもなく、自然と、それでいてもともとひとつの生き物であったかのように、混ざり合った。

 やわらかなくちづけが、一度、二度、三度目を数えたあたりで、陽色は、顔をひとみと同じほど真赤に染め上げて、離れる。

「あんた、くちびるに、ちゅってするのは、だめだって!」
「……うふふ、」

 この期に及んであいらしくそんなことを云うくちびるに触れ、あふれんばかりのいとしさにまかせて、もう一度、くちびるをかさねる。それでようやく理解したのか、陽色は、恨みがましいような、あるいは羞恥に耐え切れぬと云った表情を浮かべた。

「ばかだねぇ、君」
「……おれは、ばかだけど、今回ばかりは、あんたがまちがってる、と、おもう」
「おや、生意気」

 笑って半開きのままの隙間に、陽色は舌をねじこむ。ん、だか、ふ、だか、あまい息が鼻から漏れた。

 幾度か歯列をなぞり、舌を絡めれば、リオのからだから再び力が抜ける。呼吸の仕方がわからないのか、苦しげな声をあげた。寝台にもたれかかった彼女のくちびるを、何度も、何度も、奪う。触れたところから唾液があふれ、二人の顔をべたべた濡らした。
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