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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第7章 終幕
「それで、何でわたしを呼んだんです」
「……まあ大方察しはつくんじゃないか」
「できればそうであってほしくはないです」
「仕事だ」

 藤堂は苦い顔をした。今まで聡明な化け物が事件の解決に協力してくれるように、平和的にお願いをしにいくことはあったが、露崎の想像通りの『仕事』なのであれば、もしかしたら子どもを虐待しているやもしれぬ女のもとに、ただひとりでゆくことを命じているわけなのだから。

 この表情をされた時、渋々とは云え、毎度きちんと引き受けてしまう己にも、問題がある気が、しない、でもない。

「姉上さま、最近帰って来たでしょう」
「あれをどうやって従わせる」
「兄上さまも」
「あれをどうやって従わせる」
「あ、雨宮さんも、」
「雨宮殿はこの記事を読んだ瞬間、すべて心得たとばかりに大笑いをしていたぞ。……それを抜きにして、あれをどうやって従わせる?」

 何も云えなかった。

 金城も腕を組み、何やら真面目に考えているようだが、そのような方法があるとしたら、もうとっくにやっている。露崎という歯車によって、何とかこちらの云う事を聞いてくれる彼女の方が珍しい。雨宮に至っては、直属どころか警察署全体で見てもかなり上の位にいる上司であるので、こちらの云う事を聞いてくれるかあやしい。

 となれば、従う他ない。結局のところ、折角ひとりでも生きてゆける程度の給金を貰えるこの職とはお別れしたくないのだ。

 露崎はちいさくため息をついた。紅い絨毯を踏み、ふたり分の視線を背に受けて、庁舎の外へとあるきだす。

「ところで、」
「なんだ」

 完全にその姿が消えた頃、不意に金城はくちを開いた。

「いつになったらおふたりは結婚するんです?」

 藤堂はがたりと立ち上がった。次いで深呼吸をして椅子に座り込んだ。そのまましばらく頭に手を当て、怜悧な顔をこれでもかと困ったように崩し、わざとやっているのかと云うほど震える手で金城を指さした。

「……茶を」
「は、はい」

 地雷に触れたらしい。

 上司の滅多とない表情を見て、動揺していたのだろう。

 力加減を間違えたせいで、ただでさえべこべこになった薬缶に、またひとつ凹みを増やした。
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