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性愛執心、或いは劣情パレヰドと淫欲のコンキスタドール
第4章 びやくしょや(なおくんとあかりちゃん)
 その日、時計塔に手紙が届いた。
 正確には、日がな一日人形を愛で、最近は人形に愛でられている少女、西園寺理央のもとに。

 真新しいが飾り気のない封筒に秘された文面を見て、西園寺は少し顔を顰める。それを見た陽色が、以前西園寺が作ってやってから飽きずずっと抱いているテディ・ベアを、今日も今日とて腕に抱き、封筒を覗き込んだ。__余談だが、陽色はこのテディ・ベアをあろうことか寝台にまで持ち込むので、西園寺はこの愛らしいくまを見る度にびくりと体が震えてしまう__。

「『結婚式』?」
「おや、読めるの」
「ちょっとまえ、に、ご主人さま、教えてくれたから」

 この子が文字を覚えるのはゆっくり過ぎるほどにゆっくりであるけれど、その分一度覚えたら見間違えることはない。真白くて細い指にはほんの少しだけ肉が乗ってきて、相応に男の子らしく見えてきていた。

「そうだったかね。それはともかく、結婚式」
「けっこんしき、だれと、だれの」
「明莉と、藤堂直」
「……えっ、明莉さんと、あの、警察の、眼鏡のひと!?」
「ああ。驚きだよね。彼ら、そう云う関係だったのだね」

 甘えるように腰に擦り寄ってくる指先を、こちらも指先を絡めることで制止しながら、西園寺は羽筆を走らせた。

 西園寺は、不参加、に丸を打っていた。

「……でないの、」
「私が出席したら大騒ぎだ。余計な争いは避ける主義なのだよ。その分、千遥にでも頼んで、葡萄酒か__いや、茶でも贈ろうかな」
「お茶って、この前飲んだ、あの、」
「ああ。ドッグ・ローズの茶だね。政府の犬にはお似合いなのではないの?」

 皮肉を云ってくすくす笑ってから、しかし目の前にいる子どもはどうやらその皮肉を理解できていない様子なので、西園寺は早々に羽筆を引き出しにしまって、先程から飽かず手を出そうとしている陽色を抱き寄せた。

「ふあ、」
「私たちもいつかできるかな、結婚式」

 陽色には答えられなかった。
 返事の代わりにリオのからだを引っ張って、寝台の上に放り投げる。随分乱暴だねえ、意地悪は聞こえないふり。

「今度、明莉さんと、直さん、呼ぼ。それで、お祝いしよう」
「……ふふ、」

 微笑んでくちづけをする。

 それだけで、構わなかった。

 あの日雨宮から送られてきた瓶に、びいだまやおはじきを閉じ込めたものが、窓際で不意にきらりと光った。
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