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性愛執心、或いは劣情パレヰドと淫欲のコンキスタドール
第4章 びやくしょや(なおくんとあかりちゃん)
「ん、なおく、」
「……あかり、」
「どうしてそんな悲しそうな顔をしているんです、」

 苦しげに歪められた顔に、汗が浮いている。
 汗。涙なのかもしれないけれど、明莉はそれを云わなかった。

「……すまない、」
「謝らないでってば」
「こんな、欲に任せて襲うようなことになって、すまない……」

 ことばがあまりに悲しげで、明莉は面食らった。
 場違いなほどに熱を持ち疼くからだを、なんとか制して、そうっと、直の頬に触れる。それから、欠片の情欲も孕ませず、ただ幼い子が幼い子にそうするように、抱きしめた。

「構わないよ」

 構わないんだよ、だって、直くんだし。

 額に、ちゅう、とくちづけをひとつ。親愛のくちづけ。甘さの欠片もないそれは、皮肉なことに、この場において一番愛と云うものを表現していた。

「あ、かり……あかり、あかり、ぅ、あ、」
「なおくん、はぅ、あ、んん、」

 抑える事もできない悲鳴が、うすいくちびるを割って出た。内側が煮えたように熱くしびれているのはぼんやりわかる。あつい、あついです、譫言のように繰り返し呻きながら、明莉はちからなくリネンを蹴る。その合間にも抗いがたい感覚に嬌声を漏らした。
 直は涙を流しながら、しかし微笑んでいた。眼鏡を通さない笑顔は、泣き顔は、久々に見たような気がする。一体全体、彼は器用なのだか、不器用なのだか。

 どくどく、心臓が痛いくらいに響いている。巡りめぐる血潮が、からだ中を蹂躙する。

 子どもじみたくちづけを幾度も繰り返しながら、それでもからだは正直なもので、絶頂へと向かっていた。余裕があると云えば嘘になる。とろりと唾液がこぼれる。既に経験則として、明莉は、直が腹の内を蹂躙すると、この熱が幾分ましになることを知っている。視界がちかちかする。それでも、それでも、明莉は、直は、そうしたかった、こうしたかった。蜜口が蠕動する。肉棒が痙攣する。それでも、それでも、それでも。

 恋人と云う関係がほしかったのだ。
 幼馴染と云う関係でいたかった。
 お互い、漠然と、同じ願いを抱いていた。

 脳が沸騰したように熱い。苦しいのに、焼ききれる寸前の理性が、彼らの望む行動をうつしだす。抱きしめて、頬ずりして、額にくちづけ、微笑み合う。

 熱いものが中に出された感覚があった。それ以外は、幸福であった、と思う。
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