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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第4章 フェガリ
「好きなところから、好きなように耕してください。もう少ししたら、若い衆が来て手伝ってくれますから」
 ヘンリーは鍬の使い方を教えると、少し離れたところから耕しはじめた。カミリアも今自分がいるところから、ヘンリーが耕しているのと同じ方向へ耕していく。

 5mも耕すと、30代くらいの男性がふたり来て、カミリアのすぐ近くを耕し出す。
「あんた、公爵様の婚約者なんだって? 細っこいのに、病み上がりの公爵様に代わってこんな力仕事をするなんて、公爵様のことがよっぽど大事なんだね」
 反射的に「そんなことない」と言いそうになるのをグッと堪えると、男性に笑顔を向けた。そして自分はラウルの婚約者なのだと、自分に言い聞かせる。

「はい。ラウル様は、私を田舎町から連れ出して、素敵な思い出と愛をくださいましたから」
 こんな時のためにと、夜な夜な読んでいた恋愛小説を応用して答える。疑われないか心配していたが、男性は涙ぐんで、首にかけていたタオルで目を覆った。
「なんていい話なんだ……。公爵様ならきっと幸せにしてくれるさ」
「え、えぇ、そうですね。ありがとうございます」
 まさか泣かれるとは思っておらず、少しだけ罪悪感を覚える。だが今はラウルの婚約者として振る舞わなければいけない。婚約者としては正解だと自分に言い聞かせながら、彼らに話を合わせる。

 時折休憩を挟みながら、夕方まで畑を耕した。最初は途方もないと思っていたが、あの後農夫達が7,8人ほど来たおかげで、半分近く耕せた。
 剣を振るうのとは勝手は違ったが、久方ぶりに思いっきり身体を動かせて、気分がいい。運動特有の疲労感も、爽快だ。

「公爵様、ソニア様、ありがとうございました。これはほんのお礼です」
 ヘンリーは籠いっぱいの野菜を差し出した。ラウルは野菜を受け取ると、ヘンリーと別れの握手をする。
「こちらこそ、ありがとう。フェガリの国民が美味しい野菜を食べられるのは、あなた方のおかげです。これからもフェガリの食を支えてください」
 ヘンリーは一瞬目を見開くと、大粒の涙をボロボロ零した。首にかけていた泥だらけのタオルで、顔を覆う。
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