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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第5章 5章 陰謀渦巻く舞踏会
 次に思い出すのは、ドゥム派が折れた木刀やフレイルを投げつけてきた日のこと。カミリアはハーディをかばって足を挫いた。あの時メッキで覆われて気づかなかった本心が、今になってハーディを蝕む。
「なんで、余計なことをしたの?」
 カミリアが助けなければ、フレイルの棘で大怪我をしていただろう。だが、それでいい。大怪我をしたら、きっとラウルは自分を心配してくれた。お姫様抱っこされるのはカミリアではなく、自分だったはずだ。そして、ラウルの隣にいるのも……。

「どうして、あの子ばっかり……」
 カミリアの好きだったところが、だんだん嫌いになっていく。
 子供の頃、カミリアが溺れた時に助けなければよかった。あの時、ドゥム達に殺されてればよかったのに。
 悪い考えとドロドロした感情が、ハーディの中に蓄積されていく。

「ねぇ、貴女。シャムスの騎士さん、貴女よ」
 鈴のような可愛らしい声が、ハーディの思考を停止させた。顔を上げると、妖精のような愛らしいご令嬢が微笑んでいた。


 3日目、カミリアは久方ぶりにシャムスに帰っていた。といっても、晩餐会に参加するためで、行きたいところには行けないのだが。
 それでも窓から見える母国の景色は、心が和らいだ。どんなに狂った国でも、自分の国にいるのが1番落ち着くものなのだと実感する。

 貴族の家に着くと、他の客は見当たらない。どうらやカミリア達が1番に到着したようだ。
「私達、はやく来すぎたのかしら?」
「わざとはやく来たんだよ」
 ラウルはそう言って微笑むと、バスケットを片手に馬車から降りて、カミリアに手を貸した。ふたりが馬車から降りると、使用人が出迎えてくれる。

「ようこそお越しくださいました。随分とおはやいご到着ですね」
「えぇ、夫人に渡したいものがありましたので」
 ラウルが軽くバスケットを持ち上げると、使用人は顔を綻ばせた。
「お若いのにご立派ですね。そういうことでしたら、どうぞ」
 使用人はふたりを屋敷に入れると、客間に案内した。客間は柔らかな黄色の壁紙で、あたたかい印象を受ける。カミリアは部屋を見ながら、親戚の色もビビットな黄色でなく、こういう色にすればいいのにと思った。
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