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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第5章 5章 陰謀渦巻く舞踏会
「感じのいい子だね。僕はティミッドのところに行ってくるよ。さっき見かけたんだ」
「なるべくはやく戻ってきてね」
「あぁ、分かってるよ。行ってきます」
 ラウルはカミリアの髪にキスを落とすと、ティミッドを探しに行った。

「キザなんだから……。他の女性にもしてるんじゃないでしょうね?」
 髪に触れながら出てきた自分の言葉に驚く。
(ラウルを好きになってるみたいじゃない。違う、ただ、人たらしなところに呆れてるだけなんだから)
 自分にそう言い聞かせていると、誰かがカミリアにぶつかってきた。驚いてそちらを見ると、アストゥートだった。オールバックにしていた焦げ茶色の髪は少し崩れ、額には玉の汗が浮かんでいる。顔色もかなり悪く、今にも倒れそうだ。

「失礼……。君は、確かラウルの……」
「顔色が優れませんね。どうしたんですか?」
 カミリアの質問に、アストゥートは眉をひそめる。
「レディにこういうことは言いたくないが、彼女達の香水の匂いがキツくてね……。公務で疲れた心と身体には毒だよ……。君は、強い香水を使っていないんだね。だからラウルにも好かれるんだろう」
 こうして話している間にも、アストゥートの顔色はどんどん悪くなり、汗が流れている。アストゥートに苦手意識はあるものの、こうも具合が悪そうだと心配になる。

「休憩室で休んではどうですか?」
「あぁ、そうしたいんだけど、そこまで歩いていける自信がなくてね……。悪いけど、付き添ってもらえるかい?」
 休憩室に連れて行ってほしいというアストゥートに、カミリアの顔が強張る。ラウルからは他の男性と休憩室や庭の茂みに行くなと、口を酸っぱくして言われている。カミリアとしても、アストゥートと妙な噂ができたら不愉快だ。

「もしかして、警戒してる? こんな病人が、女性を襲うと思うのかい? 今はそんな元気はないし、俺はそんな外道じゃないよ」
 彼の言葉はあまり信用できないが、今にも倒れそうなアストゥートを放っておくのも気が引ける。カミリアはドレスの上から、そっとナイフに触れた。
(何かあったら、反撃すればいい。病人に好き勝手されるほど、私はヤワじゃないんだから)
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