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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅤ(覚醒)
 つまり、本当の意味での流産は一度だけなので、習慣性流産だと決めつけることはできないというものだった。ちなみに、三度以上続けて流産を繰り返す場合、習慣性流産と呼ばれる。
 要するに、たくさんの体外受精を初め、ごく普通の妊娠・出産を手がけてきた大ベテラン医師に言わせれば、有喜菜が次は元気な赤児を生む可能性は十二分にある―という判断であった。
 その話を紗英子は当の有喜菜と共に聞いた。隣に座る有喜菜の表情はどこまでも静謐そのもので、格別に安堵しているようにも歓んでいるようにも見えなかった、まるで感情というものを意識的に奥底に封印しているかのようにも見えた。
 かえって当事者ではない紗英子の方が涙ぐまんばかりに胸をなで下ろしていた。いや、この場合、やはり有喜菜に当事者という言葉はふさわしくないかもしれない。やはり、紗英子の方が当事者と呼ばれる立場にあるだろう。
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