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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅤ(覚醒)
 だから、まさか内気で何をするにも消極的な紗英子が直輝と同じクラスになった途端、猛アタックするなんて考えもしなかった。もし、想像がついていたら、幾ら有喜菜でも絶対に直輝と紗英子を引き合わせたりはしなかった。
 今でも、有喜菜はふと思うことがある。もしかして、紗英子は有喜菜の気持ちを知っていたのではないか? 有喜菜が直輝に淡い思慕を抱いていたことを承知の上で、直輝を奪ったのではないかと思えてならないときがある。
 もちろん、奪うと言い方は適当ではない。有喜菜と直輝は当時、付き合っていたわけでも、彼氏と彼女というわけでもなかった。また、紗英子にも自分は直輝が好きだと打ち明けたこともなかったのだ。そんな状態で、紗英子が直輝に告白したからといって、抜け駆けしたとはいえない。
 でも、有喜菜と直輝が別のクラスになって離れるやいなや、待っていたように直輝に近づいていった紗英子のやり方は何か抜け目のなさを漂わせているようでもあった。
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