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応報
第1章

キィ…と戸が開いて、誰かが入ってきた。

視線を向けたけど、射し込んだ光で眩んでよく見えない。…何よ、誰? さっきの万引きエース君?…待って、違う!

──『彼』だ!逆光だったけど判った。
私が生まれて初めて自分から好きになった『彼』が、今、目の前にいる。入口に突っ立って、見下ろしてる。表情はわかんないけど。…何で?何でよ?まさか、助け──


「コイツもお前の"ヒガイシャ"だろ?家ん中引き篭ってたの、連れ出してやったんだよ」
「陰キャでも男だもんな」
「ヤれるもんはヤりてーよな」

ゲラゲラ笑う三馬鹿。…あぁ、そーゆーこと…
助けになんか来るわけないわよね。抱きかけた期待は跡形なく消え去っていった。

手に入らないなら壊してやる。女も…『彼』も。
それを実行したのは三馬鹿だけど、仕向けたのは私。どうせそこに、無いこと無いこと吹き込まれたんでしょ?好きな女共々壊された『彼』。どうせ、私を殴り、蹴り、犯し…壊すつもりなんでしょ?

──冗談じゃないわよ。
あんたが私を選ばなかったのが悪いんじゃない。

私は女王様、岡谷妃咲。
その私が自分から『好き』って、伝えたのよ?

なにが「ごめん」よ。身の程知らずが!!

…そうよみんなあんたが悪いの。

だから、壊したのよ。だってそしたらあなたは私を憎む。





そしたらあなたの心は──私のものでしょ…?













何度目かの平手打ちで気付いたら、辺りは薄闇。入口は再び閉ざされていて──『彼』は…もう、居なかった。

「つまんねーな、アイツ」
「ビビったんだろ?」
「だっせ。代わりに万引き野郎混ぜよーぜ」

口々に『彼』を嘲る三馬鹿。…コイツら、ほんっとに馬鹿。
何もわかってない。


『彼』は私に何もしなかった。
殴りも蹴りも犯すことも、壊すことも。








「──なにお前、今更泣いてんの?」
「まだまだ始まったばっかだよー?」
「壊れるまでやめねーからな、妃咲」


死刑宣告されても、もう何も感じない。
憎悪も絶望も消え去った。


『彼』は、この場で一瞬たりとも私を見なかった。
だってもう私は『彼』の中で存在していないから。

…そういうところ、ほんと、大好き。──そんな相手が
手に入らないどころか…憎んですらくれない。



それは私にとって…一番の応報だった。







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