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また桜は散り過ぎて
第16章 心のままに
はじめは気づかずに、普通の客だと思って迎えてくれたのですが、
カウンター越しに町田さんに紹介されてきましたというと、
まじまじと私の顔を見つめました。
じっと見てから、兄さんか?と声を震わせていました。
泰典だよ、そう言うとカウンターから飛び出してきて、
言葉を失いながらも私の肩を揺さぶりながら喜んでくれました。
町田さんに聞いたというと、喫茶店のマスターっていうのは兄さんの事だったのかと、
驚きが笑いに代わっていました。なんていう偶然なんだろうって。

あなたとの思い出話をする前に、まずは父と母の話をしました。
母も亡くなっていたことを知った私と、父が亡くなったことを知った弟。
たった二人だけの家族になってしまったけど、
その唯一の家族に再会できたことを二人で喜びあいました。

そしてあなたの話です。
私の方は、あなたが店の常連でものすごくご近所だという話をすると、
省吾の方はうちの常連でもあったけど、実は俺が惚れてた女だよ、と
堂々と話していました。
結局振られちゃったけど、とも。
それでわかりました。あなたが私たちの前から去っていった事情が。
もしかしたらあなたは、私たち二人のために去っていったのではありませんか?
私は晴海さんを好きになりました。省吾もあなたの事を好きだった。
それを同時に受け止めなければならなかったあなたの心情を察すると、
なんだか申し訳なく思ってしまいます。


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