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Memory of Night 2
第29章 桃華

 亮は先ほど宵が座っていた場所に腰を下ろした。
 そうして宵にも座るよう、右手を使いそっと促す。
 宵が春加が座っていた場所に座り直すと、まじまじと顔を見られた。

「まだ宵くんがバイトを始めたての頃、僕と会ったことがないか、尋ねたことがあっただろう? 昔、君の顔を見たことがあるような気がしたんだ」
「……俺はマスターの顔、全然記憶にないですけど」
「うん、だろうね。そのあと思い出した。僕が昔会ったのは、宵くんじゃなくて君のお母さんにだったみたい」

 亮は胸元のポケットからタバコを取り出した。宵に断りを入れ、咥える。

「桃華さん、一度だけ店にきたことがあったんだ」
「……客としてっすか?」
「いや」

 その時のことを思い出したのか、亮はくすりと笑った。

「いきなり店に乗り込んできて、ハルちゃんを連れ出そうとしたんだよ」
「……乗り込む?」
「そう。ここ、会員制でしょ? 受付で身分証の確認をしないと中には入れないはずなんだけど、スタッフを押しのけて、文字通り乗り込んできた。何事かと思ったよ。そのままハルちゃんをかっさらっていこうとしたみたいだけど、ハルちゃんは拒んだ。以上。僕が桃華さんと会ったのはーー会ったというか見かけたのは、その一回だけ。いやあ、でも本当に、綺麗な人だったねぇ」
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