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Memory of Night 2
第29章 桃華

 にっこりと笑って亮は言う。

「え……結局どういうことっすか?」

 そのエピソードを単体で話されても、宵にはさっぱり理解できなかった。どうして店に乗り込んできたのかも、そもそも桃華と春加の関係性も何もわからないままだ。
 けれど、桃華ならそんな無茶をやりそうだな、とは思う。

「僕もさっぱりわからないよ。彼女が誰なのか聞いても、ハルちゃんは何も教えてくれなかったし」

 そこで亮の表情が変わる。短くなったタバコを灰皿に押しつけて、腕を組んだ。

「逆に聞きたい。桃華さんて、どんな人なの?」
「どんな……?」
「どんなお母さんだった? 君にとって」

 問われて、宵は無意識に首をかしげていた。
 桃華と秋広と三人で暮らしていたのは十歳の秋まで。もう八年も前だ。
 どんな母親なのかと問われても、母親らしいエピソードもあまりなかった。しいて言えば、あまり母親らしくない母親だった。
 三人で暮らしていた頃の幸せだった記憶を辿ろうとすると、いつもあの、雨の日に行き着いてしまう。担任の先生からの事故の知らせ。かけつけた病院の独特の匂い。ぷっつりと途絶えたそれまでの日々。
 強い喪失感に上書きされてしまうのだ。
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