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Memory of Night 2
第32章 雪

「そうだね、僕にはハルちゃんが必要なんだよ」

 冷たい雪のように、亮の言葉が降り積もる。
 ふいに電話が鳴った。それは亮のスマホだった。

「……もしもし。ーーえ? また合わないの? わかった、すぐ行く」

 短い会話のみだが、内容はわかった。レジのお金が合わないらしい。

「また、あの新しい子? 何度目?」
「レジの締めを教えて三ヶ月は経ったと思うけど、まあ仕方ない。覚えの速さには個人差がある。ちょっと行ってくるよ」

 シャツを羽織りながら、亮が言う。紺色の、見慣れたものだ。
 亮は季節問わず、黒や紺などの濃い色のシャツを好む。その理由を春加だけは知っていた。腕や背に彫られた刺青が、透けないようにだ。

 ーー僕が怖い?
 初めて彼の体を見た時、春加はベッドの横に立ちすくんだまま動けなくなった。亮が自分とは違う世界の人間なんだと、思い知らされた気がした。
 ーー怖いなら、帰ってもいいよ。今なら引き返せる。
 初めて訪れたこの部屋。春加は首を振った。恐怖を振り払うように何度も大きく振り、亮の背に舌を這わせた。
 自ら選び、自ら求めた。亮が無理矢理何かをしてくることなんてなかった。この世界に飛び込んだのは、紛れもなく春加自身だ。
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