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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱
ーーそこは一面銀世界だった。冬になると毎年積もる、見慣れた光景が広がっていた。
長靴を履き、ランドセルを背負って、白く埋もれた雪道を歩く。大きな道に出るまでは、いつだって膝まである雪の中をずぽずぽと歩かなければ学校に辿り着けなかった。
ざく、ざく、ざく。一歩踏み出すたびに、音が鳴る。
春加は必死に雪道を歩いた。ーー置いていかれないように。
「あ……っ」
それでも深い雪に足を取られ、ずっぽりと積雪の中に埋もれてしまう。冷たさにびくりと春加の体が跳ねた。
ざく、ざく、ざく。
足音はやまない。前を歩く後ろ姿を追いかけようと、春加がどうにか顔をあげた時。足音が止んだ。再び近付いてくる音。
「ーーなーにやってんの?」
灰色の瞳が頭上から見下ろしていた。
「……コケたの」
春加は目前に立つ桃華を睨み付ける。彼女はひとしきり笑って、それからしゃがんで右手を差し出した。
「とろくさっ」
口では馬鹿にしながらも、掴まって立てと促してくれているようだった。
春加はその手を握った。
「ありがとう、ーー……」
ーーそうだ、大昔は素直に、差しのべられる手を掴めた。いつから、どうして。桃華が差しのべてくれた手を、掴めなくなってしまったのだろう。