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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱
ざく、ざく、ざく。
雪道を歩く音だけが、ずっと鳴り続けていた。
春加は薄く目を開き、体を無意識に動かそうとした。
瞬間、左の脇腹に激痛が走る。その痛みは、春加の意識を急速に覚醒させた。
(ここは……?)
目の前には、光るペットボトルが置いてあった。その周辺のみ明るいが、そこ以外は停電の時のように真っ暗だった。光の向こうには人影があり、春加に背を向けざく、ざく、と壁を掘っている。
壁をーーそこでようやく思い出した。
自分は洞穴の中にいたのだ。鳴り響いた緊急地震速報のあと、穴は崩れた。
じゃあここは、洞穴の中なのか。
(この音だったのか)
ざく、ざく、と響き渡る音は、積雪の中を歩いていく音ではなく、壁を掘る音。
この音のせいで、懐かしい夢を見た。まだ幼かった頃の夢を。
「くそ、やっぱこんなんじゃ全然掘れねーな……」
独りごちるような苛立った呟きのあと、宵は持っていた石を無造作に投げた。地面をころころと転がる音が響く。
手をはたきながら振り返り、春加が目覚めたことに気付いたようだった。
「意識戻ったみたいだな。体、平気? あんたの怪我、結構やばそうだけど」
「…………」