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Memory of Night 2
第47章 春の訪れ

 ーー小さな墓石だった。
 千鶴は薄暗闇に覆われた木々の中にぽつんと立つ墓を、じっと見つめた。石や木や蔦に覆われた四畳ほどのスペースに、一基(いっき)だけある。
 ーー神谷(かみや)家、と掘られていた。

(……そんな名だったっけ)

 馴染みのない名字だ。たった一度会っただけの男の顔が浮かんだ。ずば抜けて美しかった桃華には全く似つかわしくない広秋の冴えない顔と、屈託のない柔らかな笑顔が。
 彼の隣に立つ桃華を、なぜか今なら素直に想像できた。
 ーーこの石の下に、二人の骨が眠っているのだ。

「あーあ、やっぱ掃除しないと汚いな。葉っぱまみれじゃん」

 宵が呟き、目についた葉や小さな枝などを素手で拾って林の中へと投げ捨てていく。
 盆でも彼岸でもない中途半端な時期なのもあり、誰も掃除はしていない。
 ざっと綺麗にし、宵は花を手向け線香に火をつけた。しゃがんで、手を合わせる。
 だが、千鶴はその場に立ちすくんだまま何もできずにいた。
 ふいに宵が立ち上がり、千鶴を振り向いた。何かを催促するように、手の平を開く。

「車のキー貸して」
「キー? なんで?」
「先戻って車で寝てるから、ゆっくり話してこいよ」
「……話すっつったって」

 墓に向かって、一体何を話せと言うのだろう。桃華は、もうーー。
 だが宵は千鶴の返答を待たず、千鶴が着ていたジャケットのポケットからキーを見つけ、そのまま持っていってしまう。
 千鶴も線香をあげ、両手を合わせた。合掌を終え、言葉を考える。
 何も浮かばなかった。だってここには誰もいない。伝えたかった相手は、伝えるべき相手はもうこの世界のどこにもいない。

「……ごめん」

 言葉が漏れ出ていた。
 もっと早く、言えば良かった。千鶴の心にまるで濁流のように後悔が押し寄せる。
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