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Memory of Night 2
第47章 春の訪れ

「ごめん、お姉ちゃん」

 ずっと自分の幸せを願い続けてくれた姉を、憎み続けて生きてきた。都合の悪い部分は見ないふりをして、自分の不幸を他人のせいにしながら。
 姉の孤独に優越感すらおぼえていた狡くて汚い自分。彼女の幸せを、祝福できないどころか妬んで、恨み続けていた。
 それなのに、そんな自分を桃華は身一つで迎えにきてくれた。
 馬鹿で愚かでクソみたいに腐っていた自分は、そんな桃華の差し伸べてくれた手さえ振り払い、恩を仇で返すように、酷い言葉で傷付けたのだ。
 ーー最低だ。今さらどんな言葉で詫びればいいのだろう。
 千鶴は深く頭(こうべ)を垂れた。堪えきれなかった。
 目頭が熱くて痛い。涙がとめどなく溢れてきた。
 桃華はいない。死んでしまったからだ。
 もう届かないとわかっていても、言わずにはいられなかった。

「……結婚、おめでとう。いい旦那さんに出会えて、男嫌い克服できて良かった。可愛い子供まで産まれて……幸せそうで良かった……」

 病室のベッドで微笑む桃華の顔が、千鶴の胸に鮮やかに蘇った。

「あたしも結婚したよ。あの日のバーのーー」

 墓石に触れた。堅くてひんやりした感触に、千鶴の胸はきつく締めつけられる。
 バーの入り口で抱きしめてくれた桃華の温もりが、全身に蘇った。
 あの日の姉の温もりがたまらなく恋しくなって、悲しみと喪失感が津波のように押し寄せてくる。千鶴は自分の体を掻き抱いた。もう二度と会えないという事実を、受け入れる他ないのだ。

「ーーりが……と……」

 声になどならなかった。千鶴は涙が枯れるまで、その場で泣き続けた。
 秋広に出会ってから死ぬまで、桃華は幸せに生きていただろうか。
 今さらすぎるけれど、どうにもならないくらい遅すぎるけれど、そうであってほしいと心の底から願った。
 千鶴の中にずっと蓄積していたいろいろな感情が、涙と一緒に流れていった。
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