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Kiss Again
第13章 白いパーカー
愛美の部屋に入ると ふんわり いい匂いがした。
「何の匂い?」
ふわっと笑いながら 「カサブランカ」
リビングに 大きな白いユリの花が生けてある。 その花の匂いらしかった。
おれが知っている中に 生花を飾る女の子はいない。 誰かが訪ねてくるためのものではなく 自分のために花を飾る、それは なんだかちょと贅沢なことに思えた。 愛美らしい豊かさ、というか。
どこか外で待っている、というと 教室で待っていたらと勧められ そのまま練習室に残った。
子供たちの前で 派手なラブシーンを繰り広げた男に対して そこの人たちは好意的だった。
「あゆ先生の彼氏さん」と 保護者の人たちからよばれた。
居心地が悪かったのは最初だけで 愛美が 子供たちを教えているのを見るのは 楽しかった。 愛美は 始終 笑顔だった。 見たくてたまらなかった笑顔を 満喫しながら こんなに簡単だったのか、と 不思議だった。
あゆ先生がお仕事を終えるのを待ち 駅前のカフェで 軽く食事をして 愛美が誘ってくれたので 電車で 愛美が引っ越したマンションに行った。
あれほど逢いたくて もう逢うことはできないのでは、と思っていたのに あまりにも簡単に ふたりで過ごせることが不思議だった。
駅から 愛美のマンションまで 手をつないで歩いた。
こんな時間を どんなに求めていたか。
手に入れることができたのが 本当に 不思議だった。