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第1章 同級生

一度も同じクラスになったことがないのに　仲村愛美を憶えているのには　理由があった。
　高校時代の愛美は　清潔感のある優しい女の子だった。黒髪を肩くらいまでのばし　話かけられると　まず　ふわっと笑顔を返す、すごく可愛い子だった。それに魅了されたひとりが　おれの友達。
　同じバスケ部の岩田には　愛美が初恋だったようで　大きな身体をしているのに　女の子のことは　からっきし駄目だ。そんなことをいうおれが　女の子のことに長けているわけではないが　岩田の恋心は　見ていて　可哀想になるくらい一途だった。

　「週人、おれ　手紙を　書こうと思うんだ」
　岩田がそう言ったとき、いまどき　ラブレターかよっ、とあきれた。
　「そんなことせずに　呼び出して　こくれよっ」
　「いや、いや。無理だから」

　確かに　彼女の前で　岩田が自分の気持ちを話せるとは思えない。
　「万葉集の中に　今の気持ちにぴったりのものがあるんだ。それを　書く」
　ありえない・・・　岩田　お前　理系だろっ！？　なんで万葉集なの？　
　それだったら　流行の歌から　引用した方が　まだマシなんじゃね？

　恋は　人を狂わせる、と　このとき　知った。

　しかも　その　”よみひとしらず”のラブレターを届けたのは　おれ。
　「これ　岩田から。読んでやって」
　すごくびっくりした顔をしていた。しかも　受け取りたくなさそうだった。
　優しいから　断れず　受け取ったんだろうな。