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Kiss Again
第5章 フレンチトースト
おれの部屋は 1DKで ダイニングは6畳くらい。寝室にしている部屋は ありがたいことに8畳あった。 駅からは 多少遠かったが 8畳の部屋に惹かれて ここに決めたのだ。
一年半ほど前に 家庭的なことが好きな同じ会社の女の子と付き合っていた。
その女の子は 外でデートするより おれの部屋で過ごすことを好んだ。休日の半分は 料理をしたり 一緒に借りて きたDVDを観たり 音楽を聴いたり セックスをしたりして この部屋で過ごした。
そして 部屋を 叙々に自分色に変えていった。
口数が少なく うまく自分の気持ちを伝えることができない子だった。
おれも 「言わなくても 察してくれよ」みたいな 努力をしない恋人だった。
ある日 ダムが決壊したみたいに おれへの不満をぶちまけはじめた。それが繰り返えされる逢瀬が続き 首を絞めら れるような息苦しさで 心が離れ 別れた。
後から 彼女の不安を取り除く努力をしなかった自分を責めたが 彼女が残したものを捨てて 部屋が がらん、とすると 忘れることで取り戻せるものがあると知った。
同じ会社なので 今でも顔を合わせることはある。
二人とも 平常心を装っているが 顔を合わせずにすめばどんなにいいか、と 同じ気持ちでいるのは伝わった。
多分 愛美が作ったフレンチトーストのパンは その頃のものだと思う。
過去の遺物は 不味かった。