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フレックスタイム
第1章 午前7時の女
「そういえばさ。
佐藤さん、いつもマスクしてなかった?」

「ああ。
喉が弱いので…」と、当たり障りのない理由を言った。
流石に顔を見られたくないからとか、
目立ちたくないからとは言えない。

「マスクない方が良いな。
可愛いのに勿体ない」と言われて水を吹き出しそうになる。


「ケンは普段、人見知りなんだけど、
すごく佐藤さんに懐いてたね。
子供の扱い、上手だね?」と言われたけど、
私は言わなくてはいけないことを、思い出した。

「そうだ!
社長に言わないといけないと思ってたんでした。
お子様、預かるにしては大事な情報、頂いてなくて困ってました」

「えっ?」

「まず、何かアレルギーあるかどうか。
それが判らないと、オヤツとか飲み物とか、
本当に困るんですよね。
好き嫌いとアレルギーは別問題で、
本人に訊いても判らないでしょ?
それから、緊急連絡先も判らなかった。
送り届ける先も判らなくて…」

「ああ…本当にごめん。
今朝は俺も焦っていて。
アレルギーはないよ。
好き嫌いも多分ない。
まあ、まだ食べたことないものも多いけどね。
出されたものはきちんと食べるように育ててる。
緊急連絡先は、さっき掛けた俺の携帯を登録して?
会社携帯じゃなくて、個人携帯の方だから」

「あっ…申し訳ありません。
怒っている訳じゃなくて…」

「事情も判らなかったよね?」

「まあ…でも、良いです。
それより、明日も今日と同じ時間に幼稚園に連れて行けば良いですか?」

「ああ、そうだね。
朝は7時半に家を一緒に出て、
俺は会社で降りるから、
そのままケンを連れて行ってくれるかな?
早過ぎたら園の庭で遊んでて貰える?
それで、そのまま車で会社に戻る。
帰りはタクシーでお迎えに同じ時間に行って貰ったら、
そのままここに連れて来て貰える?
で、俺が戻るまで、ここに一緒に居てくれると助かる。
金曜の夜に申し訳ないけど」

「別に予定はないので大丈夫です。
それより…
朝ご飯は?」

「ああ。シリアルに牛乳掛けたやつ。
それとバナナかな?
ランチも持たせるけど、
今朝はコンビニでサンドイッチ買って、アルミホイルで包み直したヤツを持たせた」

「それは酷い。
ちょっとキッチン、見ても良いですか?」と言うと、
返事も待たずにスタスタ歩いて行くと、
後ろから社長がついて来る。
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