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TRUE COLORS  ~PURPLE~
第9章 Lily of the valley

「社長、“夕凪”さんをウチのフロア全部案内してあげてはどうです?」

レイと話しながらも、社長とお姫様の様子は気に掛けていた。

だから、ちょっと水を向けてみる。

「一ノ瀬の最終のデザイン画も上がる頃でしょうし。

 各部のショップや工房なんかもご案内して差し上げると、

 スタッフたちも喜びますし。」

え!とお姫様の顔もパッと明るくなる。

耳が赤くなってたね。お姫様。

「そうだな。 では、“夕凪”さん、ご案内致しましょう。」

そう言って立ち上がり、手をお姫様に差し伸べ。

その社長の手をそっと取り、立ち上がるお姫様。

こういったエスコートになれた良家の子女の振る舞いだな。

社長は女性の扱いに慣れてるし。

社長と共にオフィスを出て行ったお姫様をじっと見送っていたレイが

ドアが閉まったとたん、俺に静かに噛みつく。

「どういうつもりよ?桜井。」

じっとりした目で俺を睨むレイの顔がおかしくて。

つい声をあげて笑ってしまう。

「社長と。お前のお姫様。……なんか面白いことになると思わないか?」

俺の言葉に、レイはまさに『鳩が豆鉄砲を食らったような』顔になる。

「まさか!」

肩を竦め両手を上げ、笑う。

「あの朝比奈が!?」

「いや、そのまさかがあり得ると言ったら?」

レイの笑い顔が凍り付く。

「………嘘でしょう?」


そりゃあ。あの子の書く物語はそれはそれは人の感情をきめ細かく、

かつ読み手の心を惹きつける表現をしている。

文章だけで読み手にその場の状況、

登場人物の心情を簡単に頭に思い浮かべさせられる。

老若男女問わずに。

でも、編集長がひとつだけ気にかかると言った。

『恋情』を表す文章にいまひとつ物足りなさを感じる。

それを補い余りあるストーリー性があるから、それはそれでいいが。

だが。作品を重ねるごとに、読者はその物足りなさを何時かは感じるぞ。と。

 確かにそう言っていた。


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