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TRUE COLORS  ~PURPLE~
第10章 Each night(それぞれの、夜)

そんな彼女を、いつの間にか自分も笑いながら追い掛ける。

また、自分の腕の中に抱き留めたくて。

抱き寄せては彼女の頭上にあるネモフィラに顔を寄せ。

彼女の頬に頬を寄せ。

彼女の髪から、すずらんの甘い香りを感じ。

甘い胸の疼きを心地よく感じる。

また、するりと腕の中を抜け出す彼女をまた自分も笑いながら何度も追う。

蒼く蒼く広がるネモフィラ畑の中を。

抜けるように青かった空が

厚く黒い不吉な雲に覆われていくのにも気付かずに。

何度彼女を自分の腕に優しく抱き留め、

彼女の身体の柔らかさをその腕の中に感じただろう。

ふいに彼女が今までとは違った感じで駆け出す。

そこで初めて蒼いネモフィラ畑に黒雲によって陰りが出ているのに気付く。

「待て!そっちは!!」

彼女が掛けていく先には、大きな池があった。

ああ、ダメだ、その池はダメだ。近づいてはいけない。

ダメだ、ダメだ。そう何度も呟きながら彼女を必死に追う。


彼女が、走る勢いをそのままに前のめりに池に落ちていく。

派手に跳ね上がる水しぶき。

自分がようやくその池にたどり着いたとき、

水面には幾重にも波紋が広がっていた。

ああ、その池に近づいてはいけないと言ったのに。

池のほとりに崩れ落ちるように膝を着いた時。

池の中から小さい水泡がポコポコとそこかしらから上がって来る。

その水泡と共に、真っ白な水仙の花の頚だけが

一緒に無数に浮かび上がってきて水面を埋め尽くしていく。

真っ白な水仙が水面をびっしりと埋め尽くした頃。


彼女の横たわった身体が静かに浮かび上がってきた。

夢中で池の中に入り、噎せ返るような水仙の香を放つ

白い水仙の頚たちをかき分け彼女の身体を抱き上げ、泳ぎ、岸に上がる。

冷えあがった彼女の身体を抱き寄せ、

目を開けろと叫ぶ自分の声が涙声になっている。

頬を濡らすのは池の水だけではなく、溢れ出ている涙もだろう。

歪んだ視界の中に彼女の首元にあるすずらんのチャームが光る。

彼女の冷たくなってしまったが、

柔らかく滑らかな肌を腕に感じ堪らなくなって、

彼女をギュッと自分の胸にかき抱く。

彼女の髪からすずらんの香りを感じない。


代りに感じるのは。
ナルキッソス。
自分の香り。






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