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Kiss Again and Again
第13章 十四夜
何もかもがすばらしかったのに その日の昼食だけは 最低だった。 樹さんでさえ 残した。
「どうやったら こんなにまずく作れるんだ?」
わたしは どうやればこうなるのか 経験済みだったけど 黙って笑っていた。
月は 十四夜だった。 昨日より満ちている。
「明日は フルムーンだね。 もう一泊していく?」
浴衣の替えを 毎日持って来てもらうわけにはいかないので その日は大人しく 部屋に付いている露天風呂に一緒に入った。
できもしないことを言って、と思ったけど 意外にも 樹さんは真面目な顔をしていた。
「楽しかったから あっという間でしたね。 明日は お土産を買いたいです」
「じゅんは 温泉饅頭は 嫌いだよ」
「お漬物のような日持ちするものは?」
「海だと 色んなものがあるけど 山は・・・ あーーーあ 帰りたくないなぁ」
月だけでなく 星もきれいだった。 満天の星、という言葉通りの 沢山の星が出ていた。
「あゆちゃんは 今日は あんまり飲んじゃあ駄目。 また寝てしまうから」
「食後に お風呂に入らなければ そんなにすぐには 寝ません」
「そっかぁ。 今日は 頑張るから」
「なにを?」
「全部」
旅というのは 心を近づける。 来る前にはできなかった親しみのある会話ができる。 そして 長い時間を一緒に過ごしたことと 身体が繋がったということが 時間や言葉の密度を濃くする。
お湯の中で 樹さんの手が 身体のどこを触っても 少し離れるくらいで 抗ったりしなくなっている。 離れると その分 樹さんが近づくので 意味をなさないのだけど それでも樹さんが 「あゆちゃんは 僕がきらいなの?」と言うまで 何度か同じことをやった。
そんなじゃれ合いが 楽しくなっている。