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Kiss Again and Again
第17章 別れのとき
帰路の信号待ちで 運転席から手を伸ばし 握ったわたしの手を唇に押し当てて
「これから あゆちゃんち・・・ あゆちゃんの部屋に 行っても いい?」
自信がなさそうに つぶやくように 樹さんが言う。
心うたれて 「はい。 どーぞ」
驚いたように 目を見開いて 「ほんとう?」
あんなに破天荒で朗らかだった樹さんを 何が 心配性の老人のようにさせてしまったのか・・・ 悲しい気持ちで 見つめ返す。
「ありがとうっ」
運転席から 身を乗り出してキスされた。
「後ろの車の人が きっとびっくりしていますよ」
「きっと 羨ましがっているよ」
クラクションが鳴る。 樹さんは 華やかに笑った。
コインパーキングに車を停めると 後ろのトランクから小さなバッグを取り出し
「あぁっ 夕食のこと 忘れてた!」
樹さんが 食事のことを忘れるなんて。
「コンビニで 何か買って行く?」
それも はじめまして、で 楽しそう。
「あゆちゃんは 冷凍のパスタとか 食べたこと ある?」
「ないです。 でも 美味しいらしいですよ」
「僕も 食べたことないから 買ってみようか。 たこ焼きも美味しいらしい。 へぇ・・・あんかけ焼きそばとか・・・ 何でもあるなぁ・・・」
買い物カゴは すぐにいっぱいになった。
「おでんは食べたことありますよ。 おでんも買いましょうか?」
「楽しいなぁ。 なんか一緒に暮らしているみたい」
「あのね ここはわたしが払ってもいいですか? いつも樹さんにご馳走になってばかりで。 わたしも働き始めたのですから」
樹さんは まじまじとわたしを見た。
「あゆちゃん ご馳走様です」
「どういたしまして。 お粗末さまですが」
レジをしてもらっている間も 樹さんは わたしを見続けた。
「どうか・・・ しましたか?」
「う、ん・・・ べつに・・・」
手を繋いで マンションへ向かう道すがら
「あゆちゃん・・・ 今日だけね。 あゆちゃんがお金を払うのが 嫌だとかじゃあないんだけど・・・ なんか・・・ さみしい・・・」
「えっ?」
「ヒナが 親鳥を見捨てて飛び立っていくようで・・・ さみしい」
「えっーーー? そぉぉぉお?」
笑ってしまった。
真面目な顔をしてそんなこと言う樹さんは 可愛い。