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Kiss Again and Again
第5章 はじまりのはじまり
「今日は ご馳走させてくださいね」
「それが言いたくて仕方がなかったみたいだね あゆは」
夕方になる頃には 「あゆ」と呼ばれることにも慣れていた。
「久しぶりに お好み焼きなんか 食べたいな」
「お好み焼き、ですか?」
「広島風のお好み焼きのお店 知っているんだけど。 行ってみる?」
「はい。 行ってみたいです」
本当だったら レポートのためにお勉強していたはずのわたしが うれしそうに 言う。
広島風のお好み焼き屋さんは 平日なのに混んでいた。 きっと人気店なのだろう。
立花先輩は 下調べをしておいてくれたのだろうか。 シャガール展といい。
そうだとしたら うれしい、かも。
お好み焼きを食べながら ビールを飲んだ。 混んでいるので 店内でゆっくりするわけにいかず 食べ終わると お店を出た。
「ごちそうさまでした」
お行儀よく 先輩に言われ なんだかバリケードがもろくなってゆく。
満腹感とほろ酔いのせいで 歩きつづけるのが億劫になっていたので 先輩が
「公園で 休んで行こう」
と言ったときには すぐに賛成した。
公園は 通勤や通学の駅までの近道になっているようで 三々五々の人達が ベンチに座るわたし達の前を通り過ぎてゆく。
そういえば 高梨さんと 東京タワーを見ながら こんな風にベンチに座ったっけ。 あれから半年以上たつ。 わたしの左手は どうしているだろうか。
時の流れは 目の前を通り過ぎてゆく人々のように 知らん顔だ。
長いため息がでた。
立花先輩は くすり、と笑い
「退屈?」
「えっ? いいえ そうではなくて。 知らない人ばかりだなぁ、と思って」
「そうだね。 こんなに沢山の人がいるのに 知り合いは僕とあゆだけ。 出逢えたこと自体が 奇跡かもしれないね」
こんなキザなことを平気で言ってのける男を どうすれば好きにならずにいられるのだろう?