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祈り姫 ~甘い香りに惹かれて~
第9章 ~夜宴は月夜の下で~
「嫌なんだ。運命の出会いみたいで」
ケイルは酒を口元につけたままルカを見据えた。
「は? なんだそれ」
「だってアイツ、俺のこと綺麗サッパリ忘れてるし、サクナにしてみればどうでもいい事だったんだ」
これは拗ねて言ってるわけではない。
本当は少し、否、かなりショックを受けたが。
ルカはサクナが忘れてしまったのなら、それで良いと思っている。
その事は、ケイルも知っている。
その理由は別の意味を持つのだが、今、ケイルが訊いているのはもっと単純な事。
サクナが、不安に思っているのなら解消してやるべきだとケイルは言いたいのだろう。
「…………まぁ、俺にも負がないわけじゃないが」
ケイルは、少し申し訳なさそうに言う。
「それを言うなら俺も負があったわけだし」
ケイルはフッと笑み、酒をクッと呑む。
当時、サクナはルカの存在を知らなかった。
哀しい目をした少年でしかなかったのだ。
しかし、サクナはルカを気にしてくれたらしい。
そして、当時ルカをよく思っていなかったケイルは、サクナに『忘れてしまえ』と、冷たく言ったそうな。
信頼する兄にそう言われ素直に忘れてしまった。
サクナにとってルカとの出会いはその程度の事だった。