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祈り姫 ~甘い香りに惹かれて~
第10章  ~暗闇の誘惑~



「サク、キスしよ?」

「…………えっ!? な、なに急に」

 ルカはサクナの耳元に顔を寄せ囁く。
 ケイルに聞こえないようになのか、馬車内は薄暗いとはいえ、ケイルの姿を確認できるほどの明るさはある。

「だ、ダメよ……兄様が見てる」

「見てない、兄様は見てないから」

 ふたりはヒソヒソと話す。
 秘事のように耳元で囁くルカの甘い声と僅かに耳に触れるルカの唇が脳を刺激し、そのドキドキが下腹部をきゅうっと鳴らす。

 囁くルカの声だけで躯が反応してしまう。

 サクナは、チラリとケイルに目線を移す。

 ケイルは確かに見ていなかった。

 と、言うより不自然に目線を反らしている。

 ふたりが何をしているかわかっているはず、サクナは羞恥と気の高鳴りで心臓がバクバクと早鐘をうつ。


「今だけ俺の言うこと訊けよ、な?」

 命令するよう、されど甘く囁かれサクナは眉尻を下げ困ってしまう。


「や……無理、だめ……っ」

 無理なのは兄の前だからであり、羞恥心がサクナのかぶりを、いやいや、と振るわせる。

 
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